ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Sole a catinelle 太陽が降り注ぐ

イタリア映画 (2013)

本国公開から7年半過ぎた2021年の現在でも、イタリアで2番目に高い興行収益を誇っっている人気作。お陰で、ロケ地点など詳しい情報が載っていて、大いに便利した。題名の「Sole a catinelle」は、イタリア語の表現にはない言葉だが、イタリア語の “piovere a catinelle” は “雨が滝のように降る” という意味。それを踏まえ、ここでは「太陽が降り注ぐ」という邦題を付けた。この句は映画の中で3度使われ、この訳にすれば何れの場合も矛盾なく収まるという利点もある。要は、太陽を一杯浴びてバカンスを楽しむという意味だ。この映画がなぜそんなに人気を得たのか? それは何と言っても、観ていて楽しく笑ってしまうから。あり得ないシチューションなのに、偶然と誤解がケッコとニコロの親子コンビを、とんでもない世界に導いていく。それも、いきなりではなく、ホップ、ステップ、ジャンプのように、観客の予想を超えて 大きく飛躍していく。そのタイミングが 実にスムースで粋だ。それに、何と言っても 11歳のニコロが最高に素敵。頭がすごく良くて、何度もケッコの “教師” となるという設定もおかしいし、振り撒く笑顔には 何度見ても魅せられる。なお、この映画には、イタリア語字幕と英語字幕が存在するが、前者は台詞の2割ほどが省略され、後者は時々意味不明の箇所がある。そのため、常に両者を比較しながら訳を進めた。

主人公のケッコ、ダニエラ、ニコロの一家は、ケッコがホテルの冴えないボーイ、ダニエラが高級衣料の製造工場の工員という設定で始まり、ダニエラの工場が 無能なCEOによって安物衣料の工場に変えられ儲からずに休業、同時期に ケッコが一念発起でボーイをやめ、経済的なピンチを迎える。ところが、ケッコが電気掃除機のセールスマンになり、あまたの親戚に売りまくってNO.1セールスマンになると、ローンで購入した物品でアパートの部屋を一杯にする。しかし、こうした販売法では、当然、売り上げは下降線を辿り、社長から警告を受けるまでに落下。歩合給なので収入も減り、ローンを返済できなくなる。結果、買った物品は取り上げられ、愛想をつかしたダニエラからは別居を告げられる。このケッコは、お金もないのに、息子のニコロに、「成績が全部10だったら、夢のようなバカンスに連れて行く」と約束してしまう。そして、ニコロは努力してオール10をもらう。ケッコは担任に、どれか1つ9にしてくれと頼むが拒否される。そこで、連れて行ったのが、バカンスと偽って、生まれ故郷の親戚へのセールス旅行。しかも、親戚全員が、死亡するか、移住するか、離婚して販売実績ゼロ。父に騙されたニコロは怒って母に電話し、その指示で母の友人のバカンスに同行しようとするが、父の涙を見て父と一緒にいることに決める。そして、道路を走っている最中に見つけた「動物園(イタリア語で、「ゾー」)」だと思った案内板。これに従ってゾーエの画廊に行ったことで、2人の運命は劇的に変わる。

ロベルト・ダンツ(Robert Dancs)は、映画の舞台となったパドヴァの東北東150キロにあるイゼーオ湖畔、サルニコ(Sarnico)という村の出身で、2002年6月2日生まれ、撮影時は11歳。映画初出演で、映画出演はこれ1本のみ。ジッフォーニ映画祭では「EXPLOSIVE TALENT AWARD 2014」を受賞した(右の写真)。Dancsという姓はルーマニア系で、話せる言葉も英語、フランス語、ルーマニア語と書いてあったので、ルーマニア移民の子孫であろう。演技力は抜群、顔の表情は多種多様で観ていて関心させられるが、何といっても笑顔が可愛い。映画の中でこれほど笑顔の多いケースも稀で、そこはやはり喜劇だからであろう。

あらすじ

映画の冒頭、11歳のニコロが、学校の教室で何かを書いている(1枚目の写真)。そして、ニコロのナレーションが流れる。「パパの名前はケッコ。南イタリア出身の36歳。背が高く ハンサムで クールでマッチョ… じゃないけど、優しくて、感じがいい」。次に、場面はヴェネツィアの5ツ星ホテルSt. Regis Veniceに変わる、「パパは、初めは大型金融取引をしていた」。電気掃除機で床をきれいにしていたボーイのケッコが、経済新聞を読みながら入って来た客に、「済みません、ダウ平均はどうですか?」と尋ねる。「1ポイント半下げた」。「信じて下さい。状況は劇的です…」。ここで、支配人が割り込む。「お待ち申しておりました。パーティ会場の方へどうぞ」(2枚目の写真)。そして、ケッコには、「顧客に迷惑をかけるな」と叱咤する。「そんな状況なので、パパは、自分が評価されているとは思っていなかった」。ケッコはレストランの手すりに手をおいて大運河〔南出口近く〕を見ている。「そして、9月のある日、パパは運命を変えることになる凄いアイディアを思いついた」。ケッコは、ここでも電気掃除機のノズルを握っている(3枚目の写真、左後方に見えるのは 小島にあるサン・ジョルジュ・マッジョーレ聖堂)。「そして、すぐにママに話しに行った」。母ダニエラは、織物工場の工員。ケッコが意気揚々と訪ねていくと、ダニエラの顔が冴えない。「どうした、そんな顔して?」。「工場が閉鎖されそうなの。あなたは、何を話しに来たの?」。「今、辞職してきた」。この言葉に、ダニエラは卒倒する。

家に帰ったケッコは 求職欄を熱心に調べる。「ママの熱意に感染したパパは、職探しに没頭した。でも、最初は簡単じゃなかった。でも、ある日…」。ケッコは、Fata Gaiaという電気掃除機のセールスマンとして雇用される。「パパは、執拗に夢を追いかけ、自分の夢を実現できそうな仕事を見つけた」。ケッコが住んでいたのは、パドヴァ。ヴェネツイアの西35キロにある人口20万の都市。ケッコは南部出身だが、多くの親戚が北部に移り住んでいたため、販売対象は大勢の親戚。最初のシーンでは、3人の伯母を前にして、「見て、掃除機の王様がバーゲンだよ!」と実演し(1枚目の写真)、3台売ることに成功。「パパは、非常に有能であることが証明された」。次のシーンでは相手はいとこ。こうしたことが度重なり、ケッコはその年の最優秀セールスマンになり、社長から表彰される(2枚目の写真)。ケッコは、「わが妻と息子に感謝したい。愛してるぞ!」と祝辞を述べる(3枚目の写真)。

成功の波に乗り、パパは幾つかの気まぐれを起こした」。古いキッチンの棚が、最新式のシステムキッチンに替わり、そこに付属する家電や調理器具が増えていく。何かを買う度に、ケッコは給料をFido Flyという金融会社に預け、「ニコロ、この金融会社は無敵の換算利回り(TAEG)だぞ」と言いながら(1枚目の写真、TAEGは6.3%、その下には、「カスタマイズしたローン」と書かれている)、購入物品のローン返済の紙にサインする。ニコロが買ってもらったグレート・デーン(2枚目の写真)には、ケッコがTAEG(タエグ)という名前を付ける。そして、キッチンは必要がなさそうな物で溢れる(3枚目の写真)。キッチンの隣には70インチの大型液晶TVも。「でも、ママは幸せじゃないみたい」。ダニエラは、「もっと、小さいのなかったの?」と文句をつける。

パパは、人生には、暗い時代も来るんだと教えてくれる」。ケッコは、親戚の販売先を網羅し尽くし、普通の人にセールスに行った際に、ロボット掃除機を見せられてバカにされる。そして、社長の前に呼び出され、6ヶ月間でセールスの額が87.8%も減った図を見せられ、「熱意を使い果たしたのか?」と訊かれる(1枚目の写真)。「しかし、真の起業家が正しい答えを見つけなければならないのは、まさにこの厳しい時なのだ」。ある日、ケッコのアパートにローンの担当者がやってきて、毎月の返済がされていないという理由で 購入物品を回収する(2枚目の写真)。「効果的な解決策を考える」。ここで、ケッコがダニエラに提案した解決策は、「ローンを返済するために、別のローンを組む」という最悪の方法。これにカッときたダニエラは、「どこかに行ってちょうだい。私の人生から消えて。出てって!」と別居を宣言される。ダニエラは、ケッコのセールスマン用の長期出張スーツケースを、アパートの2階の窓から投げ捨てる。「ママとタエグと僕は、祖父母の家に移った」。その頃には、タエグは成犬になっていた〔ということは、少なくとも1年半はかかるが、この映画は喜劇なので、それを半年でやってみせた〕。祖父は 「こいつなしで食事できんのか?」と不満を言うが(3枚目の写真)、祖母は 「黙って。ただの子犬じゃないの」とニコロを庇う。

パパは、毎日電話をかけてきた」。電話は母ダニエラの携帯に入るので、ニコロは時により、外にいる母の所まで走っていって父ケッコと話す。「パパ、どこにいるの?」。「レストランで順番を待ってる」〔お金のないケッコは、Caritas(キリスト教系の慈善団体)による貧困者に対する食糧供給所に並んでいる〕。そして、「学校はどうだ?」と訊く。「8が2つで、10は1つ、あとは全部9だよ」(1枚目の写真)。「いいぞ。こうしよう、ニコロ。もし、今年の成績が全部10だったら、夢のようなバカンスに連れて行ってやる」。「パパはいつも冗談ばっかり言ってるけど、一旦約束したら、絶対守ってくれるんだ」。そして、3ヶ月後。ケッコがニコロの成績を受け取りに行くと、校長が、「まあ、ニコロのお父さん?」と嬉しそうに訊く。「ええ」。校長は成績表を取り出すと、「素晴らしいですね〔Complimenti〕!」と感激したように微笑む(2枚目の写真)。「何がです?」。「ご覧になって」。ケッコが成績表を受け取ると、すべて10。ケッコは、「担任の先生とお話しできますか?」と尋ねる。そして、帰ったと聞くと、大急ぎで追いかける。路地の途中で教師に追いついたケッコは、「今、ニコロの母親と私が別居していることは ご存じないでしょうが…」。「奥さんから聞きましたよ」。ここから、ケッコの長い話が始まる。彼は、ニコロをバカンスに連れて行くお金などないので、約束を破らなくて済むように オール10を変更して欲しいのだ。そこで、ターゲットを「道徳〔condotta〕」に絞り、学校では使わなくても、家では汚い言葉をいっぱい使うと嘘を付き、「道徳」を9に下げて欲しいと頼む(3枚目の写真)。ケッコの下心を見透かした教師は、「あなたの経済状況も、ニコロに夢のようなバカンスを約束したことも知っています。ニコロはとても頭の良い子です。だから、本当のことを話してあげなさい。ピンチ〔crisi〕なのだと」。

ケッコはニコロの成績をダニエラに見せるため、ストが行われている工場まで行く。そのストにはTVのクルーも取材に来ていた。取材に答えた主導者は、「私たちは、世界に誇れる製品を作ってた! そこに、この “天才的” なCEOがやって来て、普通のコットンTシャツを作れと命じ、お陰で売り上げは急落」と、お粗末な経営陣を突き上げる。レポーターは、もう一人に聞こうと、ダニエラにマイクを向ける。「私たち、自暴自棄になってるわ。昨年は、余剰人員の解雇。今度は、家族ごと通りに放り出されてしまう」。それを聞いたレポーターは、「あなたの絶望は、家族の方はどう受け止めておられるでしょうね」と言い、今度は、よりによってケッコにマイクを向ける。ケッコは、「TVに出てるのか?」と嬉しそうに訊いた後で、「我々は悲観論に走り過ぎてる。わが国は、世界で7番目、ヨーロッパで3番目の経済大国だ。我々は成功するに決まってる。ちょっと楽観的になるだけでいいんだ。これは僕の息子の成績表。オール10だった」。ベッドで半分寝ていたニコロは父の声で目が覚め、この話を聞いてにっこりする。レポーターとダニエラは、ケッコの暴走を止めようと必死だが、彼は気にも留めない。「これで、どうやったら悲観的になれるんだ」。そして、ニコロに向かって話しかける。「パパは、バカンスに連れて行くと言った。だから、一緒に行こうな!」(1枚目の写真)。TVを見ていたニコロは、「スーパー・パパ!」と大喜び(2枚目の写真)。翌朝、祖父母の家から、旅行用の持ち物を持って出てくる。ケッコにかけた最初の言葉は、「パパのパスポートは有効?」、だった。当然、海外旅行に出かけるのだと思っている。

ここで、タイトルが表示される。映画開始後11分まので、かなり遅い。逆に、これまでは本編のためのイントロ、事情紹介となる。何せ、タイトルは、「太陽が降り注ぐ」。これまで、そんなシーンは全くなかった。年代物のBMWに乗った2人〔ローン好きのケッコも、車だけは買い替えなかった〕、ニコロは、「ねえ、僕をどこに連れてくの?」と、嬉しそうに尋ねる(1枚目の写真)。「サプライズだぞ!」。「ヨーロッパだよね?」。「そうだ」。「ヒントぐらい言ってよ」。「6文字だ」。「Londra(ロンドン)」。チョッチョッと否定。「Madrid」。「ちゃう」。「Parigi(パリ)」。「チョツ」。「ならどこ?」。「なら、教えてやろう。そこだ」。その時、道路際に表示板が見える。「MOLISE」。それを見たニコロは、冗談だと思って笑い転げる(2枚目の写真)〔モリーゼという州は実在する。ローマの東南東150キロくらいにある州だが、パドヴァからは直線距離で470キロほど離れている。車に 4~5時間乗っていたことになる。行き先を尋ねるタイミングがいくらなんでも遅過ぎるが、喜劇だから、このタイミングが重要なのだろう。なお、実際のロケ地も モリーゼ州で、カンポバッソ県内の複数の村に分散している。後で寒村の全景が映るが、それはLimosanoのという村〕。笑い終えたニコロが、「冗談だよね?」と訊く。次のシーンでは、ニコロは助手席に憮然とした顔で座っている(3枚目の写真)。冗談ではないと知ったからだ。

2人の乗った車は、ケッコの伯母の家に着く(1枚目の写真)〔撮影場所はCasacalenda〕。独り身で、何もすることがなく、戸口に座っていた伯母は、不意の訪問客に驚いて立ち上がる。「あんた誰だい?」。「分かんないの?」。「ケッコかい?」。「リテッラ伯母さん!」。2人は抱き合う。「分かんなかった?」。「長いこと会ってないだろ」。「30年ぶりだよ」〔ケッコは36歳なので、6歳の時に会ったきり〕。「その子は?」。「ニコロだよ」。ニコロはキスされたくなかったので、手を上げて挨拶する(2枚目の写真)。「どうしてここに来たの?」。「バカンスなんだ」。「どこに泊まるの?」。「ここだよ」。それを聞いた途端、伯母の顔が曇る。伯母が最初にしたことは、電話機のダイヤルに鍵を付けて かけられないようにすること〔ケチではなく、年金生活で余裕がほとんどない〕。ケッコはニコロを連れて、子供の頃に泊った部屋に連れて行く。そして、何も変わっていないことに感激する。そして、奥のベッドに腰を下ろすと、「お前の年頃の時、初めてここにバカンスに来た」「ここに着いた最初の夜に、おねしょしたんだ」と言い。ベッドカバーをめくると、マットレスにおねしょの跡がくっきりと残っている(3枚目の写真)。

そこに、Fata Gaiaの社長から携帯に電話がかかってくる。ケッコの信用は地に落ちているので、言い方は厳しい。「今、どこにいる? 何をやっとるんだ?」。ケッコは、モリーゼで親戚回りをして売り込むつもりだと、作成したリストを見ながら言うが、社長は、「よく聞け。もし、今週、最低7台を売らなかったら、お前は終わりだ」と宣告する(1枚目の写真)。そのあと、ケッコがトイレに行き、水洗の音を2回連続して聞いた伯母は、「嫌だわ、2回も。水道代だってかかるのよ」と、ブツブツ。そこに、ノートを持ってやってきたケッコは、リストは作成できても、現況が分からないので1人ずつ読み上げて伯母に訊く。「ピーナ伯母さんは、元気?」。「そこよ」(2枚目の写真)。伯母が示した先には、写真立てに入った遺影と、聖像と、手向けのロウソクが。ケッコは、リストの①に横線を引く。「マーディア伯母さんは?」。別の写真立て。リストの②に横線。「アンジェラ伯母さん?」。別の写真立て。リストの③に横線。「ローザ伯母さんは、どの写真立て?」。「ローザは死んじゃないわ」。ケッコは期待を持つが、「カナダに行ったわ、娘たちと一緒に」。この言葉で、リストの④だけでなく、⑤⑥⑦にも横線が。「今、ここにいるのは、あんたの従兄のオノフリオだけだよ。結婚して、あんたの子と同じくらいの男の子が2人いる」。家の外で、ニコロは、サッカーをプレーする格好でボールを持っていたが、そこに、セールスマン姿で現れたケッコは、「さあ、ニコロ、サッカーの時間だぞ」と声をかける。ニコロは、「パパ、そんな恰好でプレーするの?」。「パパが用事を済ましてる間に、村の子供たちとプレーすりゃいい」(3枚目の写真)。

2人の乗った車は、オノフリオが住んでいる村に向かう(1枚目の写真)。この村の映像は、1枚目の写真の遠景、村の中、階段部分など、それぞれ別の村での映像が使われている。この遠望は、Limosanoという村。ネット上で探した同じ角度からの写真を左下に示す〔対比できる〕。ところが、村の中心に行ってみると、そこには壁沿いに7人の老人が暇そうに座っていただけ〔撮影はPetrella Tifernina〕。それを見た2人は唖然とし(2枚目の写真)、ニコロはがっかりして背を向ける。ケッコは、「待て、待て、子供たちはちゃんといる」と言うが、車で少し移動し、“老人が2人カードで遊んでいる” のを見つけたケッコが、「ここには、子供が遊べるような校庭のような所はありますか?」と訊くが、その時のニコロの表情(3枚目の写真)を見れば、結果は明らかだ。ケッコは、あと2ヶ所で訊くが、すべて空振り。最後は、廃棄物集積場からタイヤを肩にかけて出てきた老人に、「村役場はどこですか?」と尋ねると、「誰に用事?」と訊かれ、「村長」と答えると、「わしが村長だ」。「バカンスで息子をここに連れて来ました」。「あんたは大馬鹿者だ」。そのあと、ケッコはニコロを連れて、オノフリオの家に向かう。そこに行けば、少なくとも息子と同年代の男の子が2人いるからだ。その時に映る石の階段道は、Limosanoの風景(4枚目の写真)。しかし、実際に行ってみると、家にいたのはオノフリオ1人で、離婚した妻は2人の息子を連れて出て行ってしまっていた。これで、Fata Gaiaの電気掃除機を売る目途はなくなってしまう。

伯母の家に帰って来たケッコは、居間に置いてある古いTVで、ニコロにゲームをさせようと端子を探すがどこにもない。「このクソTV、いったいどうなってやがる!」。それを聞いたニコロは、「ののしるの やめてくれる? そのTVには、SCART端子〔ヨーロッパで使用されるAV機器間の映像と音声信号を送る端子〕がないんだ」と教える(1枚目の写真)。ケッコは、「罵ってるんじゃない、これが解決法なんだ」と反論するが、ニコロは 「解決法なんかない。それ40年前のTVだよ」と再反論。ケッコは、サイドボードの中に30年前に来た時に遊んだゲームの基盤を発見し、それを取り付けて遊び始める〔ATARIのPONGというゲーム。スローなパドルで、スローなボールを打ち返すだけの単純なもの〕。ケッコは それを、体をフルに使って楽しんでみせる(2枚目の写真)〔ニコロは呆れて見ている〕。その騒ぎに、様子を見に来た伯母は、電気代がもったいないと言ってTVを切ってしまう。そして、電気代の請求書を見せる(3枚目の写真)。ケッコが、「2ヶ月で6ユーロ46セント」と安さに噴き出すと、「今まで5ユーロ払ったことはあるけど、6ユーロなんて初めてだよ。悲劇だね」。「子供は楽しまないと。それが人情ってもんだ」。伯母は、そこで、ニコロを、村で行われたキリスト教の夜の行事に参加させる。

「夢のようなバカンス」とは ほど遠い あまりのひどさにニコロは遂にキレ、帰ってくると、外の井戸にもたれて母に電話する。何を話したかは分からないが、母は、「坊や、心配しないで。あした、パパにピオンビーノ(Piombino)まで連れて行ってもらいなさい。正午に、アサッドが待ってるわ」と指示する(1枚目の写真)〔ピオンビーノからは、コルシカ島とサルデーニャ島行きのフェリーが出る/伯母の家から港までは直線距離でも380キロ、実走行距離は一般道123キロ、高速道368キロ、一般道18キロの計510キロになる。どうみても5-6時間はかかるので、正午に着くには朝6時に出発する必要がある〕。電話が終わってもニコロが井戸の所にいると、ケッコが呼びに来る。そして、ニコロを見つけると、「何してる?」と訊く。「ママと話してた」。「万事順調だと言ったか?」。「あした、ピオンビーノまで行かないと」。「ピオンビーノ? なんで?」。「アサッド、ソカイーナ、その子供たちとバカンスに行くため」(2枚目の写真)。「パパがバカンスに連れて来たのに、さよならする気か?」。「僕をバカにする気?」。「今日着いたばかりで、明日にはバイバイか?」。「1年間 頑張って勉強したのに、ここに電気掃除機を売りにきただけじゃないか! そうと知ってりゃ、友だちと一緒に家にいたのに!」。「落ち着け」。「明日、出てくから!」。「なぜなんだ?」。「ムカついたからだろ〔Perché mi hai rotto il cazzo(ペニス)〕!」。これは、ニコロが初めて使った卑語。ケッコは、ニコロが普通の子供のように悪態をつけることが分かり 大喜びする。ケッコはニコロを、自分がおねしょした方のベッドに寝かせ、少し寒いと言われると、戸棚からニクロム線ヒーターを出して来て、「これなら暖かいぞ」と言う(3枚目の写真)〔映画のラストへの伏線〕

翌朝、オス鶏のコケコッコーの鳴き声が聞こえ、ケッコが荷物を両手に持ってハッチバックに入れる。「行くぞ、ニコロ。さよなら、伯母さん」。伯母は、庭先のテーブルに置いたごく小さなパン1切れと牛乳コップ半分を指して、「朝食は?」と訊くが、「胃に重いから」と断る。車が動き出すと、ニコロ役のRobert Dancsが歌う。「♪シーンとした感じ、話してくれてないよね。どうしたらいいか分からない時の。もし大変な丘があったのなら、下るのは素敵だよね。今から、どうなるの、パパ? 降り注ぐ太陽を肌に感じて、気持ちよくならないの? さあ! 肩につかまるから、ズボンつりをしっかり締めて、ここから飛び出そうよ!」(→♪♪♪〔ドルビー形式(ac3)の音楽ファイル。クリックすればダウンロードされる〕。そして、あっという間に港に到着。フェリーの前では、アサッド一家が待っている(1枚目の写真)。ニコロは、「パパ、がっかりしてない?」と訊く(2枚目の写真)。ケッコは、「パパが そんな人間に見えるか?」と負け惜しみ。「あの人たちは、西欧人から多大な恩恵を受けて来たから、今度はこっちが受ける番だ」。そう言って、ニコロを送り出す。フェリーに、多くの車が順番に乗り込む映像が映り、ケッコが車に乗り込んで悔し涙を流していると、突然、ニコロがやって来て 助手席の窓を叩き、おどけた格好をする(3枚目の写真、ケッコの頬に2筋の涙が見える)。

運転しながら、ケッコは、「なんで、戻ってくる気になったんだ?」と尋ねる。「赤ちゃんみたいに泣いてたから」(1枚目の写真)。「私がか? お前は、父さんのことが分かってない。ママとケンカさせる気か?」。「別れたじゃない」。「誰がそんなこと言った? 別れてなんかいないぞ」。「パー、なんでクソみたいなこと(デタラメ)言うのさ〔Perché mi dici puttanate〕?」(2枚目の写真)〔ニコロが2度目に使った卑語〕。「悪い言葉は、許可を受けてから使え! お前の母さんと俺の間にあるのは…」。ここで、ニコロが 「ささいな意見の食い違い」と、父の口癖を代弁する。ケッコ:「だが、お互いに愛し合ってるから、元通りになるだろう。来年には、コウノトリがお前の弟を運んでくるかもな」。この「コウノトリ」という表現を巡って2人が冷やかし合っている時、ニコロが、道路脇に「ZOO」という表示を見つける(3枚目の写真)〔実際には、ZOOの2つ目のOの中に、Eという文字が描かれている〕。ニコロは、てっきり動物園だと思い込み〔イタリア語でも、動物園はZOO〕、「パパ、動物園だ!」と叫ぶ。

2人は、途中で歩くことしかできなくなる悪路を入って行くと、大きな庭と、立派な邸宅が見えてくる。その低い石垣に1人の男の子が座って白ウサギを抱いていたので、ケッコが、「おい、男の子〔bambino〕、動物園はどこだい?」と声をかける。しかし、少年は顔を上げることすらしない。そこで、「おい! 男の子!」と大声を張り上げる。すると、少年はようやく顔を上げる(1枚目の写真)。ケッコは、引き続き大きな声で話を続ける。「動物園はどこだ? 案内板を見たんだ」と訊くが、返事がない。そこで、再び、「動物園〔ゾー〕はどこだ?!」と、再度大声を張り上げる。「ここ」。「それ〔ウサギ〕が動物園なのか? もし君が金魚を持ってたら、ジェノヴァの水族館になるのか? 謙虚な男の子だな。君の名は?」。返事がない。「君の名は?!」と、3度目の大声。「ロレンツォ」。「君のお母さんはどこだ?!」。「あっち」と指差す。一方、建物の中では、ゾーエという女性が、精神分析医から、「場面緘黙症〔自宅では話せても、他人とは話せないような精神医学的障害〕は一過性障害です」と説明を受けている。ゾーエは、「でも、ロレンツォが話さなくなってから1年経つのよ」。「呼吸練習や乗馬療法やハーブを続けましょう。それに薬も」。「薬はダメよ」。そこに、「ご婦人方、お早う」とケッコが声を現われる。「あなたの息子のロレンツォ君と話したのですが、彼によればあなたに直接…」と言いかけ、驚いたゾーエが、「失礼。息子があなたに話したのですか?」と尋ねる。「ええ、ロレンツォ君」。「名前を言ったんですか?」。「秘密なので?」。「今、どこにいます?」。「あそこに。息子のニコロと一緒です」。ニコロとロレンツォは、芝生の上に座って話し合っている。「僕、大きな犬が怖い」。「僕のはグレート・デーンだよ」。「グレート・デーンって、大きいんだろ? でも、おとなしいそうだね」。「サッカーするの好き?」。「うん」。ロレンツォが普通に話しているのを聞いたゾーエは、感激する(3枚目の写真)。そして、ケッコが、「もう、行かないと」と言い出すと、精神分析医は、「ここに、いさせなさい」と強く勧める。ゾーエは 「どこに行くんです?」と訊き、ケッコは 「寝る場所を探してます」と答える。「ここに泊まればいいじゃない」。「できませんよ。タダで?」。「ええ」。「泊まります」。

ここから、この映画の流れが がらりと変わる。ゾーエの運転するローバー・ミニ・カブリオレに乗った4人。ニコロとロレンツォは後部のオープン座席から体を乗り出して楽しんでいる(1枚目の写真)。続いて、母ダニエラのスマホに入った映像。ニコロが馬に乗り、「チャオ、ママ、すごく楽しいよ!」と満面の笑顔(2枚目の写真)。すぐに、撮影中のケッコが、スマホのカメラを自分に向けて、「チャオ、ダニエラ、ゾーエと乗馬セラピー中なんだ。ニコロはゾーエの息子と友だちになった。ここには、他にも問題を抱えた子供たちがいる」と話す。「こっちは元気だ。お仲間によろしく。楽観的にやれよ」。ダニエラは、あっけに取られてスマホを見る(3枚目の写真)。

次にゾーエが向かったのは、映画のセット。そこでは、ゾーエの夫が、「Euthanasia Mon Amour(わが愛する安楽死)」という映画の一場面を撮影している〔ロケ地はChiusdinoにあるサン・ガルガノ修道院(1288年)の廃墟〕。“死の病を患った美しい女性が、自分を生かしている電源のプラグを抜く” というシーンを象徴的に演出しているのだが、監督は気に食わない。そこに、ケッコが割り込み、結果的に、女性のモノローグではなく、女性を生かそうとする人間を登場させることに。そして、その「人間」をケッコが演じる。「あなたは、自ら死を選んではいけません。そんな権利はありません。生命は、不可侵…」。ここで、ニコロが、「不可譲〔奪うことができない〕だよ パパ」と、台詞の間違いを指摘する。ケッコは、「ごめん。生命は、“不可譲だよ パパ” の贈り物なんだ」と言い、失笑を買う(1枚目の写真)。この先もケッコの三文芝居は続くが、ニコロの出番がないのでカットする。監督が途中で撮影を投げ出し、4人がゾーエの車に戻ると、ケッコは 「監督はちょっと…」と口ごもり、ゾーエが 「ろくでなしよ」と締めくくる。そして、その夜。場所は、最初のゾーエの家なのだが、急に “より 金持らしく” なっていく。外のベンチにケッコと並んで座ったゾーエは、夫の監督のことを、「彼、数日はロレンツォと一緒に過ごすと約束したのに、映画にかかりっきり」と批判する(2枚目の写真)。批判はエスカレート。「彼のせいでロレンツォがああなったのに、ちっとも分かってくれない。感情ってものがないのよ。息子との交流を犠牲にするなんて。だから、緘黙症なんかになっちゃって」。そう言うと、ケッコに寄りかかって泣き出す。一見、ラヴ・シーンのような光景を2階の部屋から見たニコロは、ニヤニヤしながら、「そんなことしていいの?」のサイン(3枚目の写真)。それを見たケッコは、盛んに言い訳する。

ニコロたちが一緒に来てくれないというので、朝からロレンツォがふさぎ込んでいる(1枚目の写真)。ニコロは、「なぜ、一緒に行っちゃダメなの?」とケッコに尋ねる(2枚目の写真)。この質問に対するケッコの答えは、「彼らを見てきたろ。床ベッド、気の流れ、乗馬セラピー、呼吸練習… 彼らは共産主義者だ」という 事実とは正反対の言葉。「床ベッド」は、床に直接マットレスを敷いて寝ること。「気の流れ」は、紹介しなかったが、ロレンツォのセラピーの中にヨガが入っていること。あと2つは既にロレンツォ絡みで出てきた。4つのうち3つがロレンツォ。これで、なぜ共産主義者に? これに対し、ニコロは、「学校で教わったよ。政治的理由や、人種的理由、性的指向で差別しちゃいけないって」と反論する(3枚目の写真)。「バカ抜かせ」。「ホントに心が狭いんだ。そんなじゃ、ある日 僕が告白したらどうするの?」。「何を?」。「別に、何でも」。「何を言おうとしたんだ? 何を告白するって?」。「仮定の話だよ」。「今、話しておけば、何とかできる。時間があるからな。何を告白するんだ?」。「ホモ」。共産主義者と言うのではないかと怖れていたケッコは ホッとする。これで何故かケッコの気分が変わり、次の場面では、ニコロが 「君と一緒に行けるぞ!」と言いながら外に飛び出てくる。それを聞いたゾーエもニコロを抱きしめる。

今度は、日帰りのお出かけではないので、ゾーエの車の後をケッコの車がついて行く(1枚目の写真)。その直後の場面は、途中寄った衣料店で、ニコロが 「パー、Yシャツでいいじゃない。もう行こうよ」と文句を言ったのに対し(2枚目の写真)、ケッコが、「ダメだ。お前、一緒に行きたいんだろ? なら、同じように生き、同じもの着ることで、イデオロギーがどのくらい危険かを 身をもって知らないと」。そこで、ケッコは、“共産主義者” の好みに合うよう、ゲバラの顔の入ったTシャツを、自分と息子用に選ぶ。途中、きれいな海岸線を走るが(3枚目の写真)、これは州道227線〔ただし、これでは、目的地のSanta Margherita Ligure(サンタ・マルゲリータ・リグレ/ジェノヴァの西南西約20キロにあるリゾート)から、ジェノヴァ方面に離れていく方向なので、逆向きでないとおかしい。それに、そもそも、一行は南からSanta Margherita Ligureに接近しているハズなので、こんな所は通らない⇒撮影効果を狙った構図〕。そして、ゾーエが目指した場所は、豪華なヴィラ。4枚目の写真は、Santa Margherita LigureにあるVilla Durazzo(ヴィラ・ドゥラッツォ)。その豪華さは、このヴィラのホームページ(http://www.villadurazzo/)を見ればよく分かる。5枚目のグーグルの航空写真を見れば、サンタ・マルゲリータ・リグレの町とヴィラ・ドゥラッツォの位置関係がよく分かる。

ゾーエが到着すると、ヴィラの使用人が迎えに出ている。ゾーエは、笑顔で 「今日は、みんな」と呼びかけ、メイドの1人は、「お帰りなさい、ロレンツォ」と言う。つまり、ゾーエは、このヴィラの住人ということになる。ゾーエは、黒服の秘書に向かって、「マヌエラ、あの人たちをよろしく」と指示する。マヌエラは、ゲバラの赤いTシャツを着て、ゲバラのベレー帽を被った2人に向かって、「こちらへどうぞ」と笑顔で歓迎する(1枚目の写真)。2人が案内されたスイートは、最初に通された「読書室」には、ショパンが死ぬ前に弾いたグランド・ピアノが置いてある(2枚目の写真)。最後に案内されたのが、マルコ・ポーロ・ルームという名の寝室。壁には ドメニコ・ピオラという17世紀後半のジェノヴァの画家のフレスコ画が描いてあり、キャビネットは1700個のラピスラズリで飾られている。東洋風の絵が描かれたベッドには、サボイ家のマルゲリータ女王やヘーゲル〔ドイツの哲学者〕も寝たことがあると説明される。すると、ケッコは、「ヘーゲルがこのベッドに?」と大喜び。「崇拝者〔「ファン」の意味もある〕ですか?」。「エヴァ・ヘーゲル〔架空の女優〕、彼女の映画は全部観た。シーツを変えてなければいいが」。マヌエラが、最後に、小さな問題としてマイナスイオン発生器が故障していると言うと、ケッコは、「まさか! それを最後に言うなんて。重大な問題だ。もう行こうか、それとも、泊るか?」とニコロに訊く。ニコロは、父の三流の態度が恥ずかしくて、「泊まるよ」と言う(3枚目の写真)。ケッコが、10ユーロ札を出して、「9ユーロあります?」とチップを渡そうとすると、あまりの非礼にマヌエラは怒って出て行ってしまう。彼女がいなくなると、ケッコが率先してベッドの上で飛び跳ねるが(4枚目の写真)、ここまでのケッコは、最低の “下司野郎”。

2人は、ゾーエとロレンツォと一緒に、ヴィラにあるプールに行く。ここでもスマホでその様子を撮り、妻のダニエラに送る(1枚目の写真)。ゾーエと楽しそうに泳ぐ夫を見たダニエラが面白いハズがない(2枚目の写真)。泳ぎ終えたケッコは、メイドに真っ白なバスローブを着せてもらうと、横に控えている2人のボーイに声をかけ、カクテルを持って来させる。その前を、ロレンツォとニコロが駆け抜ける(3枚目の写真)。テントの中にいるのは、ゾーエとその母。

そこに、1人の男が現われる。母は、子供たちの写真を撮っているゾーエに、「ヴィットリオが来たわ。サインして欲しい書類があるの」と声をかける。ゾーエは、ヴィットリオが差し出した書類にサインをするが、2つ目のサインの時、チラと読んで、「また、ここ?」と呆れる。ヴィットリオは、「『ここ』は、私たちの会社に多大なチャンスを与えてくれます」と説明する。ゾーエは、「お父様が亡くなってから、私たちの会社は 商品の製造をやめてしまい、今や、株式売買と金融取引ばかり」と不平を漏らす。それに対して母は、「お父様が亡くなって、あなたは会社の33%を所有したけれど、何の興味も示して来なかった。何がしたいの? ヴィットリオに、財務管理のお説教?」と嫌味を言う。そこに、ケッコが、「今日は」と言い、「ゾーエのママ?」と訊く。「ええ」と言われると、「信じられないほど、お若いですね。おめでとう、マダム」と言ってゾーエを喜ばせた後で、「会計士さん?」とヴィットリオに声をかけ、握手する。ヴィットリオは、「私は、ジュリエッテ〔ゾーエの母〕の共同経営者で、会社のCEOです」と誤解を訂正する。ケッコは、ゾーエの手元にあった書類の表紙に「Fido Fly」の社名を見ると、「BrugherioにあるZanoni法律事務所が代表となり、ミラノのViale Jennerに本社があるFido-Fly?」と、普通なら絶対に知らないことをすらすらと言い、相手を驚かせる。「そこと、何をする気なんです?」。「会社を取得します」。「Fido Flyを買いたい? 何と、まさか、冗談でしょ?」(1枚目の写真)。ゾーエ:「いいえ」。「そりゃ最悪だ。Fido Flyは数週間以内に破産しますよ」。そして、さんざんFido Flyに苦しめられて学んだ知識をぶちまける。TAEGの話をし、「TAEGを知ってますか」とヴィットリオに訊き、彼が言葉を詰まらせると、プールで聞いていたニコロが、「年間換算利回り」と口を出し(2枚目の写真)、ケッコから 「とくできた」と褒められる。ケッコは、さらに高いTAEGがもたらす弊害について説明し、最後は、「私の忠告は、この会社の取得など忘れることですな」で締めくくる。そして、さっさとその場を立ち去る。しかし、これほど専門的な話を聞かされると、相手はその道のプロかもしれないと思い、買収を思い留まる。ジュリエッテがゾーエに、「今夜の催しには出席する?」と訊くと、ゾーエは 「誰と? 私の新しいパートナーと? イエスよ」と答える(3枚目の写真)。

プールの後、全員が庭園の一角を通り(1枚目の写真)、昼食に向かう。メニューは、「かぼちゃのトルテッリ、ピスタチオ・ソース」。しかし、娘と母は食べるどころではなく、ゾーエの父を巡って非難の応酬を始める。ケッコは、隣に座っているロレンツォに、「誰のことを話してる?」と訊く(2枚目の写真)。「おじいちゃんのリッカルド」。「どこにいる」。「天国だよ、2年前」。ケッコは立ち上がると、外のテラスに出て行き、「リッカルド! 聞いてるか! このクソッタレ! 孫の場面緘黙症はお前さんのせいだぞ!」と、天に向かって怒鳴る(3枚目の写真、矢印)。この奇想天外な行動に、母は ますますケッコが嫌いになるし、ゾーエは ますます好きになる。

その夜、ヴィラで盛大な催しが行われる。1枚目の写真の緋色のカロッタは枢機卿。客の中に、如何にもボス的な顔をした男がいて、ヴィットリオを見つけると、「なぜ、Fido Flyにサインしなかった?」と訊く。「娘が代理委任状を取り下げた」。「甘やかされた小娘が」。「そうじゃない。今、彼女は 新しいパートナーを信じてるんだ」。「そいつは誰だ?」。その時、ケッコとニコロが、異常とも言える突飛な服装で現れ、4人でポーズを取る(2枚目の写真)。「彼だ」。「アホか? 何て格好だ」。「違う、用心しろ。彼は 情報に詳しい」。ゾーエは、ケッコをさっきの男に紹介する。「ケッコ、こちらは ピエル・ジョルジョ。私の父の大の友人」。ピエルは、右にいるピンクのドレスの若い女性を、“妻”だと紹介し、ケッコは手を取ってキスする。次に、左にいる黒服の中年女性を、“娘” だと紹介するが〔さっきの妻は、後妻〕、ケッコは差し出された手を無視し、「失礼、でも彼女は…」とピエルに言っただけ。最後に、ピエルが、一番左にいた少女を指して、「これが…」と言い始めると、ケッコは 「待って、お祖母ちゃんだ!」と冗談を言う(3枚目の写真)〔“妻” が20代、“娘” が40代なので、“孫” は60代という発想〕。この時の、それぞれの顔が面白い〔一番可哀想なのは、無視・誹謗された “娘”〕。この少女は、ケッコが去って行くと、とてもユニークな表情で彼の行方を見守る(4枚目の写真)。後で、この少女が、ニコロにべったりなので、そちらに興味を惹かれたのかも。

その夜の催しの目的は、黒人のファベルジェ神父の仲介で、アフリカの1つの村の飢えに苦しむ子供たちを援助するという取り組みに対する募金の結果発表。司会はジュリエッテ(1枚目の写真)。集まったお金は小切手にして封筒に入れられていて、それを娘のゾーエと孫のロレンツォに開けさせようとするが、登壇したのはケッコとニコロとロレンツォ。ジュリエッテの顔が引きつり、ニコニコしているゾーエを睨む。ケッコは、ジュリエッテが見せたスライドにショックを受けて喉が詰まったと言い〔その直前に、1人だけ、話を聞かずにロブスターを食べていた〕、シャンパンを要求する。しかも、ボーイが持って来たシャンパン・グラスを見て 「2008年のヴィンテージ?」と訊く始末。腹に据えかねたジュリエッテは、「金額を知りたいですね」と請求。ケッコは封筒を開けると、金額を言う前に、半泣き声で、「済みません、でも、この小切手が “先日付” でないことに心を動かされて」と言い(2枚目の写真)、ニコロに 「こんなの見たことあるか?」と訊き、ニコロは「一度も」と言う(3枚目の写真)〔ある公認会計士の講座には、「資金繰りが苦しいッ… でも支払いが必要だ… という際に 苦し紛れに利用されるのが先日付小切手」と書いてあった〕。このやり取りを聞き、笑い声が起きる。「信じられないような善意です」。ジュリエッテ:「金額をどうぞ!」。ようやく、ケッコが、金額を言う。「43000ユーロ〔約500万円〕!」〔意外と少ない〕。ジュリエッテは、笑顔に戻り、「これで、この村にたくさんの物を買ってあげられます」と言い始めるが、それに割り込むように、ケッコが 「たくさんの電気掃除機! アフリカのダニは手では取れません」とセールスを始めるが、誰もそれをセールスとは受け取らず、冗談だと思って笑う。ジュリエッテは、「発電装置から10キロ離れているので、他のものを買いましょう」と 火消しに努めるが、ケッコは 「延長コード! 延長コードさえあれば、問題は解決しますね」と言い、笑いはさらに大きくなる。ジュリエッテは、仕方ないので、「音楽!」と式典を終わらせる〔ますます、ケッコが嫌いになる〕

閉鎖された工場のテラスの上に立ったストの主催者が、旗を掲げた大勢の工員を前に、「彼らは、私たちの権利と尊厳を盗んでいます! 私たちは、権利を守るため死ぬまで戦います! だから、子供たちと一緒にバカンスに行っているハズの時期に、こうしてここにいるのです!」と演説していると、ダニエラのスマホに着信音が入る。彼女が見てみると(1枚目の写真)、そこには、船の上でバカンスを楽しむケッコとニコロが映っている。「チャオ、ダニエラ!」。「ママ、ここ素敵だよ!」(2枚目の写真)。スマホには、ケッコと水着姿のゾーエがカクテルを持って笑顔で手を振るシーンも。2人が乗っているのは 素敵なクルーザーだ(3枚目の写真)。ピエルの孫娘はニコロにべったり(4枚目の写真)。船尾のデッキチェアに横になった3人の女性の1人が、テーブルの前の座ったジュリエッテに、「あのケッコって、ゾーエのパートナーなの?」と訊く。ジュリエッテは直ちに否定し、「彼はただの友達です」と言うが、年配の女性は 「それ確かなの?」と疑う。それを聞いたジュリエッテは さっと席を立ち、どこかに行ってしまう。

ニコロと2人だけになったケッコは、「息子よ、今日は こんな豪華なヨットの上で、上流社会の人たちと一緒にいる。それは楽しいことなんだが、注意しろよ! これが幸せだなんて決して思うな」。「賢明だね、パー」(1枚目の写真)。「いいか、あっちを見ろ。あれが、幸せだ! ヘリもある!」。ケッコが指さしたのは、よりグレードの高いクルーザー(2枚目の写真)。ニコロは 「興奮しないで」と制するが、「あれが、俺たちのゴールだ」。「パパったら」。「俺たちが上流社会に入ったら…」。「やめてよ」。「奴らを、上から見下ろしてやらないと」。「もう!」。「2人で空に行こう」。楽しい曲がバックグラウンドに流れ、2人がパラセーリングをエンジョイするシーンが入る(3枚目の写真)。

照明で飾られた港の建物が映る(1枚目の写真)。ここは、ヴィラの南3キロにあるPortofino(ポルトフィーノ)という港町(2枚目のグーグルの航空写真参照)。そこで開かれた一種の独演会では、ヴィットリオが一人演壇に座り、司会者が 「マニエーリ博士、招待を受諾していただきありがとうございます」とお礼を述べる。聴衆はバカンスにこの周辺にやってきた経営者たち多数。最初は順調そうに見えたが、ヴィットリオが話題に上げた2点、①EUとの協力関係の構築、②女性労働者の雇用、について聴衆から反論が出される。それを代表する形でケッコが立ち上がる。「ヴィットリオ、あなたはヨーロッパについて述べたが、HACCPについては言及しなかった」(3枚目の写真)。ヴィットリオが口ごもっていると、プールの時と同じように、隣に座っているニコロにマイクを向ける。ニコロは、「危害要因分析必須管理点」と、HACCP(ハサップ)の正式名称をすらすらと口にする(4枚目の写真)。ケッコは、モッツァレッラ〔チーズ〕を例にとって、HACCPが義務化された場合の面倒な標記手続きについて羅列する〔日本では、2021年6月から完全義務化〕。この攻撃が終わると、次は、「ヴィットリオ、あなたは女性労働者についても言及しました」として、今、日本では働く女性の課題が問題となっているが、それに逆行するような意見を並べ立てる。産休時の家族手当の支給、代替要員の確保と訓練、等々。こうした反論が、働く女性を妻に持っているケッコから出されるのは理にそぐわないのだが、男性が圧倒的に多い経営者の聴衆には大いに受ける(5枚目の写真)〔なぜ、ゾーエが拍手しているのかは分からない〕

再びヨットの上で。ジュリエッテはゾーエに、「いつまで、あの起業家と一緒にいる気なの?」と文句を言う。ゾーエは、「しばらく離れないわ」と はっきり肯定し、それに対し、母は 「放り出しなさい」と否定する。画面は、そこで切り替わり、恐らくその言葉を聞いたであろうケッコが、カード・ゲームをしているジュリエッテの頭の上からバケツ1杯の水をぶちまける(1枚目の写真)。これを見た、ニコロとロレンツォは大喜び。ジュリエッテは、誰にも好かれていないとみえる。一方、同じ船に乗っているピエルとヴィットリオも話し合っている。ピエル:「奴と、親しくなれ」。ヴィットリオ:「無理だ」。「ゴルフでもやって、シャンパンを飲め。仲良し作戦だ。笑顔を忘れるな」(2枚目の写真)。

2台のゴルフカートが芝生の上を並んで走る。ケッコではなくニコロが運転している。「何を賭ける?」。「君に任せるよ、ヴィットリオ」(1枚目の写真)。「シャンパン」。「いいぞ」。「5ケース」〔1ケース12本〕。ここで、お金が心配なニコロが、「ダメだよ」と割り込むが、それを逆に取ったケッコは、「ダメダメ、10ケースだ」とワルのり。「10か、いいぞ。賭けは大きい方がいいからな」。2人だけになると、ニコロは、「パパは、1本買うだけのお金もないんだよ」と注意するが、ケッコは笑って、「息子よ、お前には 経済について学ぶべきことがたくさんあるな」と言い、さらに、「いいか、銀行は、ささいな債務がある奴には金を返せと喚くが、巨大な負債に対しては援助するんだ。分かるか?」と付け加え(2枚目の写真)、「20ケースだ、ヴィットリオ」と叫ぶ。その頃、ピエルはゾーエと話していて、「お言葉だが、ケッコがそんなエキスパートだとは思えんが」と言い、ゾーエから新聞を見せられる。そこには、「Fido Fly倒産」という大見出しが踊っている(3枚目の写真)。その上の小さな文字は、「どの経済の専門家も ローンの巨人の倒産を予測できなかった」いう意味。再度、ゴルフ場。ヴィットリオが、ケッコに、「Fido Flyのこと、前もってどうやって分かったんだね?」と尋ねる。「知ってたのさ」。「あんたの専門は?」。「清掃関係」〔ケッコは、自分の仕事のことを話している〕。「やっぱりそうだと思ってた」〔ヴィットリオは、ケッコが 会社の解散・清算・再生をする仕掛け人だと誤解した〕。そして、「俺たちの会社も “きれいに” する気か?」と訊く。「できるものなら何でも」。「慎重にな」。

いざ、ゴルフ開始。3番ホールでは、池ポチャ。ニコロが網籠でボールをすくい取る。5番ホールでは、池に放尿。どこかのホールでは、打球が立ち木の股の上に。そして、9番ホールの最後はグリーン上のパター競争。ケッコが、あれほどひどかったのに、最後は、同スコアに持ち込むとは、ヴィットリオも余程のヘタクソ。最初にパターを打つのはヴィットリオ。ボールは真っ直ぐホールに向かうが、ロレンツォがピンを差したまま動かなかったため、ボールはピンに弾かれて外へ。2人は 「やった!」と喜ぶが、ケッコは、「対戦相手が失敗したとき、そんな風にしてはいかん」と叱る(1枚目の写真)。ヴィットリオは、「まだ子供じゃないか」と口を挟み、ピンを取らなかったことに言及する機会を失う。次が、ケッコの番。ニコロは帽子を握って祈る(2枚目の写真)。ケッコのボールも真っ直ぐホールに。今度は、直前にロレンツォがピンを抜き、ボールはそのままホールの中に。ニコロは、「パパはチャンピオンだ!」と大喜び(3枚目の写真)〔「ピン差したままパット」という用語があるが、「パットをする時、ピンは抜くべきか? ~プロも知らない新事実」というサイトによれば、各種のテストの結果、「ピンを差したままのほうが、抜いた時より常に成功率が高い」という結論を出しているので、映画の意図と違い、ロレンツォはえこひいきをしたことにはならない〕。賭け試合の終了後、ヴィットリオは、「これからは、俺達はチームだ」と言って、堅く握手する。

ゴルフ場のクラブハウスで、ケッコとピエルが ヴィットリオを交えて会う。ピエルは、「あんたとヴィットリオが話したことは知ってる。信用していいか?」と訊く。ケッコは、葉巻を口にすると、煙を吐きながら、「いいとも」と答える。その時、ケッコのスマホに着信がある。相手は、Fata Gaiaの社長。しかし、バッテリーが切れてしまう。ヴィットリオは、自分のスマホを貸す。ケッコは、ヴィットリオのスマホから社長に電話する。その中で、ケッコは、今、Pier Giorgio BolliniとVittorio Manieriという2人の財界の巨人と重要なビジネスを進めていると話し、その内容として、「彼らはケイマン諸島に会社を持ってて、汚い滓(おり)〔fondi neri〕の入った中国の箱を作ってます。彼らはそれを私にきれいにさせてから、イタリアに持ち込みたいそうです」と話す。社長にとっては、電気掃除機のセールスと無関係なので、「明日までに契約を取らなかったらクビだ」と言ってガチャリ。ところが、ヴィットリオのスマホは当局に盗聴されていて、経済に疎いケッコが「汚い滓」だと思った用語 “fondi neri” の本来の意味は「不正資金」「裏金」。だから、当局は、カイマン諸島のペーパー・カンパニーを使った資金洗浄の情報がつかめたとホクホク(2枚目の写真)。

スト中の工場内で、男性の責任者〔弁護士?〕が、「女性の皆さん〔働いているのは全員が女性〕、ベストを尽くしましたが、これが彼らの対案です」と交渉結果を話すと〔内容は不明〕、いつも中核となっている女性は、「財政困難ですって? ウソばっかり! 一銭たりとも残らず払ってもらうわ。でなきゃ、合意はゼロよ!」と まくし立てる。すると、スイッチが入っていたTVから、女性アナウンサーの声が聞こえてくる。「ポルトフィーノは、常に旅行者の天国です」。そこに、社長のヴィットリオが映ったので、全員の視線が注がれる。「どこが、財政困難なのよ」。アナウンサー:「ヴィットリオさん、今日は〔buon pomeriggio/英語のgood afternoon〕」と、インタビューを始める(1枚目の写真)。ダニエラ:「いい気なもんね、バカンスなんて」。TV中継は、ゾーエのクルーザーからだ。「素敵なヨットに乗って、お友達とおワインを飲むなんて素敵ですね」。そこに、友達代表としてケッコが加わる。TVを観ていた全員の顔が強張ったのは当然だ。アナウンサーは、「夏のヨットでは、スパークリングかドライ〔辛口〕のどちらが合いますか?」とケッコに質問する。「パーティにはスパークリングだね。すぐに楽しめる。ドライは、いつも新鮮だし、何と言っても正統派だ。だがね、大事なことは、ヴィットリオみたいな友だちと飲めることなんだ」。そう言って、2人は嬉しそうに乾杯する。そして、「ニコロ! こっちに来て、ヴィットリオおじさんにキスするんだ」。ニコロは、TVの画面に入ると、ヴィットリオの頬にキスする。それを見たダニエラは気を失って倒れる。「ママに挨拶して」。3人は、カメラに向かってニッコリする(2枚目の写真)。工場では、助け起こされたダニエラが、「誓うわ、こんなの知らなかった。何てロクデナシなの」と涙を流す(3枚目の写真)。そして、復讐の方法を考えつくと、男性の責任者に「一緒に来て」と声をかける。

夜のヴィラのプール。テントの下で、疲れたニコロとロレンツォは横になって寝ている。ゾーエはニコロに何かをプレゼントしたらしく、それについてケッコがくどくどお礼を述べていると、ゾーエが服を脱いで下着だけになり、プールに飛び込む(1枚目の写真)。そして、ケッコにも服を脱いで中に入って来るよう誘う。ケッコは、「もし、飛び込んだら、水が沸騰してパスタが茹でられる」と冗談を言って遠慮する。そこに、テントに置かれたスマホに着信音。ケッコが見てみると、そこに映っていたのは、ダニエラと例の男性。ダニエラは、「今、新しいお友だちのアントニオと一緒にテントにいるわ。働く女性の要求に真剣に取り組んでくれているのよ」と言うと、キスして見せる(2枚目の写真)。それを見たケッコは、元々ダニエラを愛していて、浮気症でも何でもない真面目な性格だけに、ショックを受けて体が震える(3枚目の写真)。

その結果、翌朝、ケッコはすぐにヴィラを出て行く。ゾーエは、あまりの突然の出立に、「何が起きたの?」と訊くが、ケッコは、「ゾーエ、何でもない。戻らないといけなくなったんだ」と説明する。ゾーエは、「ケッコ、言わせて、私たち楽しい時を過ごせたし、ロレンツォには笑顔が戻ったわ。ありがとう」と言って、ケッコの頬にキスする。ケッコは、ロレンツォの前まで行くと、「ロレンツォ、チャオ、パル〔友だち〕」と言い、頭髪にキスすると、「場面緘黙症は、もうなしだぞ」と言い聞かせる(1枚目の写真)。そして、ニコロを連れて車に向かう。車の中で、ニコロは、作夜のダニエラからの動画を見せられる。「この人、ママの新しい友だち?」。「そうだ」。「このドンクサ〔cesso〕が?」。「ニコロ!」。「知りもしないトンチキ〔coglione〕のことを 性急に判断してはいかん」〔そう言いながら卑語を使っている〕「この男性と関係を樹立したら、自由意思で、ママの所に留まるか決めればいい」(2枚目の写真)。そのあと、「ママにメールを送るんだ」とも頼む。「『パパは、ママが大好きだから、戻って欲しい』って。『家族の格〔nuclo〕を壊さないで』って」。「核〔nucleo〕だよ」。「パパをいじめるな」。「自分でメールすれば?」。「お前がやるんだ!」〔メールしたかどうかは分からない〕。2人はパドヴァに着く〔直線距離で240キロ〕。車からニコロの荷物を下ろしたケッコは、ニコロに向かって、「俺たち、一緒で楽しかったろ? ニコロ、パパはいつもそばにいる。いつ電話してくれてもいい」と言った後で、「それに、忘れるんじゃないぞ…」とその後の言葉を期待すると、ニコロは、ちゃんと、「楽観的に」と答える。「そう、楽観的にな。そうしてりゃ、いつだって太陽が降り注ぐ」。「僕、太陽が降り注ぐのって、好きだよ」(3枚目の写真)〔ここでも、映画の題名が使われている〕

ニコロが2階に上がって行くと、玄関の前で待ち焦がれていたダニエラがノックの前にドアを開ける。ニコロは母に抱きつかれて嬉しそう(1枚目の写真)。そして、母からのキス責め。それが済むと、ニコロは、「ママ、僕が何もらったか分かる?」と訊く。「何もらったの?」。すると、場面が変わり、祖父がニコロのグレート・デーンを連れて散歩している。祖父は、「何てくだらん夏だ。『どこに行きましたか?』 犬を糞させに連れ出しただけだ」とブツブツ。そこに、ケッコが馬を連れて現れる。「この牡馬はタン〔日焼け、の意味〕だ。ニコロが大事にしてる。世話してくれよ」と言って渡す(2枚目の写真)〔プールで話が出ていたゾーエのプレゼント〕。両手で大型犬と馬を持った祖父は茫然とするだけ。一方、ケッコからの連絡がなかったので、Fata Gaiaの社長はケッコの関係書類をシュレッダーにかける(3枚目の写真)。

ここで、「2ヶ月後」と表示される。パドヴァ市内のキオスクに「Il Gazzettino〔日刊地方紙〕」の速報が大きく掲げられていて、そこには、「マニエーリとボリーニ、共謀して犯罪に走る」と書かれ、ヴィットリオとピエルの顔写真が大きく載っている(1枚目の写真)。その左のポスターの標題は、「パドヴァで目覚しい逮捕劇」。顔写真はヴィットリオのみ。ケッコがスマホで話したことが、逮捕に大きく貢献したのであろう。ダニエラが自転車に乗っていると、街角の古い建物の前に、工場で働いていた女性達が集まって盛んに拍手をしている。建物の前に立っていたのはゾーエ。彼女は、「私は、この古い家族工場の前であなた方に会うことにしました。何故かと言えば、ここが私たちの原点であり、ここから世界に冠たる美と品質を持った製品が生み出されたからです」(2枚目の写真)「私たちの今後の課題、それは原点への回帰ですが、それには皆さんの協力が必要です」。ここで、再び盛大な拍手。「私の目を開かせてくれ、ここまで漕ぎつけることができたのは、ケッコのお陰です」。ここで、ケッコが、共産党の赤旗を持って登場し、左隣に立ったニコロと同時に左手の拳を握って上げる。そして、旗をニコロに渡すと、ニコロが作った赤いノートを読み始める。「お早う、皆さん。皆さんも拳を上げましょう。親愛なる同志。私は最善を尽くしました。懸命に。それは、不正と戦う義務があると思ったからです」(3枚目の写真)「私は、あなた方を、尊敬しています。労働者としても女性としてもお粗末なので」。ここで、聴衆からざわめきが聞こえ、読み飛ばしに気付き、「法律があなた方に定めている保護がお粗末なので」と正しい文章を読み直す。「心より感謝致しますとともに、今後ともよろしくお願いします。追伸。間違わずに読んでね、パパ」。これで、ケッコが読み上げた文章は、すべてニコロが書いたとバレてしまう。ニコロは思わず顔を背ける。ケッコ:「ここで、私事になりますが、皆さんの中の1人に言いたいことがあります。彼女は、私が愛する人、今、私が心悶えている人です。ダニエラ、私は今や別の人間です。大きく変わりました。あなたと元通りになれるなら、何でもするつもりだと、言いたいのです」。最後は、泣き出してしまい、「ダニエラ、許して」と言って群衆の中に入って行き、聴衆からの拍手とともに、ダニエラを抱きしめる(4枚目の写真)。「遂に、最初からやり直すことができた」。

短いシーンの連続。1枚目は、ケッコとダニエラのアツアツの仲。2枚目は、出来上がった製品をゾーエと一緒にダニエラがチェックしているので、ケッコの妻ということで昇格したのか? そのケッコは、3枚目のように「営業担当取締役」になっている。

一方、学校では、ニコロの授業中の態度に担任の厳しい目が光る(1枚目の写真)。そして、担任、プラス、心理学者と、ニコロの両親が対面で話し合う。担任:「私は、すぐに この状況は深刻だと考えました。軽く見るべきではありません。そこで、私はお医者さんに相談しました。彼女は、現在ニコロが置かれている心理的な状況について説明して下さるでしょう」(2枚目の写真)。心理学者:「少年の心理学的特性は非常に明白です。あなたの息子さんは、彼の想像力が創り出した理想現実に逃避する傾向が顕著です。その原因は、あなたの家族の経済的困難にあると思われます」。ダニエラは、「ニコロは、いったい何を書いたんです?」と質問する。担任は、「すぐお話ししましょう。彼のバカンスは乗馬で始まり、その馬をプレゼントされました。それから、彼は、海辺の豪華なヴィラにお客として招かれ、VIPが多数出席したパーティに参加、そこではカクテルやロブスターが出されました。それから、彼はヨットに乗りました。モーターボートに引っ張られたパラシュートにも。そのあと、ヘリコプターに乗ってゴルフ場に行き、勝ってシャンパンを獲得しました。それが、彼のバカンスなんですよ?!」と呆れたように言う。そもそもそもの “誤解の原因” は、オール10の成績を変えて欲しいと頼みに行ったケッコにあるのだが、担任らに対し、ケッコは 詳しい事情を説明せず、「でも、世の中、大不況だったんですよ」と、ある意味、自己弁護しただけ。

この直後、「あ、まだ、まだ、待って。僕らのバカンスはまだ終わってない」と、ニコラの声がし、一家3人を乗せた車がモリーゼ州にあるリテッラ伯母の家の前に着く。すると、ケッコの従兄のオノフリオが待っていて、「可哀想なリテッラ伯母さん」と言い、すぐに 3人を家の中に連れて行く。伯母は、ベッドで横になり、うわごとを言っている(1枚目の写真)。「89… 89… 89…」。電気代の用紙には、2013年7・8月の電気代が89.40ユーロ〔約1万円〕と書いてある(2枚目の写真)。これは、かつて6ユーロ46セント〔約700円〕の電気代に腰を抜かしていた伯母にとっては天文学的な金額だ。ケッコは、「ニコロ、俺たちが出てった時、ヒーターのスイッチ切ったっけ?」と尋ねる。返事は、「ううん。今、消しに行こうか?」というもの(3枚目の写真)。ケッコは、もう一度伯母のベッドに行き、「伯母さん、大丈夫?」と声をかける。今の彼なら、89ユーロなどすぐ払えるので、安心させるかと思いきや、そんなことは一言も言わない。「この機械〔自動血圧測定器?〕は、コンスタントに伯母さんを調べてるんだよ」と言っただけ。それが耳に入った伯母は、「それ、電気かい?」と訊く。そうだと知ると、「プラグを抜いておくれ」の一点張り。血圧計と生死とは全く関係がないのに、ケッコは、「伯母さんに、自ら死を選ぶ権利はないんだよ」と、プラグを抜かない。「共犯者になるのは嫌だよ」。あまりのナンセンスにニコロは笑ってしまう(4枚目の写真)。結局、「安楽死だ」と言ってケッコがプラグを抜き、伯母は電気の消費がなくなったと知り、急に元気になる。映画は、エンドクレジット映像の中で、ニコロに弟が生まれるところで終わる。

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  イタリア の先頭に戻る          2010年代前半 の先頭に戻る